【オススメ本】 『印象派への招待』絵画の見方

印象派の影響力は強い。

そもそも他の芸術ムーブメントである新古典主義やロマン主義、ダダイズムなどは聞いてもピンとこないのではないか。しかし印象派は誰もが知っている。それだけ人の心に訴えかける共感力や、75万円の絵が2億円以上に跳ね上がるなど影響力が強いのである。

 

本書は印象派への手引書となりそうだ。登場する作家はルノワール、ドガ、ゴーギャン、モネ、スーラ、マネ、セザンヌ、ゴッホ、ロートレック。画家の死後、名をあげたものを含め印象派のオールスターである。
セザンヌとルノワール
印象という名だけあって、キャンバスに細部まで描き込むことはせず素早いタッチと実際よりも誇張された色彩で展開される。図の左はセザンヌ『赤いチョッキの少年』。右側はルノワールの『可愛いイレーヌ』だ。こうして比較するとルノワールは、さすがに筆さばきが滑らかだ。筆跡を残さない技法のせいもあるが、本人自身が最初の展示会で批評家から「病気の肌を描く画家」として酷評を受けた経験が大きいのかもしれない。以来、ルノワールの人物は光で包まれたような優しい印象となる。明るくやわらかな画面は、特に女性に評判がよい。

5つのキーワード

 

そして印象派とえば、モネのようにキャンバスに光を描いた絵を連想する人も多いだろう。しかし本書見開きの5つの抑えるべきキーワードだけでも眺めておけば、印象派がなぜ不良画家の集まりなどと揶揄されたのか、当時の伝統的なサロンに対する反発のムーブメントだったのかが理解できる。
歌舞伎など伝統芸能も、ストーリーを知るのと何も予備知識なしで観覧するのでは楽しみ方が変わってくる。その歴史背景を知っておけば、美術館に足を運んでも漠然と「いい色だね」や「素敵だな」といった感覚意見だけではなくなる。たとえば「なるほど印象派以前には、教会などに飾られる天地創造や天使の絵などアカデミックなものしか絵画と認められない風潮だったから、画家たちはアンチテーゼとしてこういう普通の人物を描くことになったのか」と意見も変化してくるはずだ。

 

1877年、第3回印象派展の名画

 

画家のさまざまな生い立ちも、端的な言葉で纏めれているのでアート初級者には教科書的な一冊になりうる。2つの絵はどちらもドガだが、彼は多くの芸術家から慕われてきた。印象派自体も外の光や風景を取り入れたものが多い中、ドガだけはあくまで室内にこだわったからだ。その光もバレエの舞台や室内の電球など、人工の光にこだわっている。さらに人物を、その瞬間でしか見せない一瞬を切り取った当時からすれば奇抜な作風だからともいえる。いつの時代も、大多数の裏をつく人間は一目置かれるのかもしれない。

 

印象派誕生への10の事件

 

本書は絵画の鑑賞講座としての役割もあるが、同時に世界の大きな歴史背景からのアートの立ち位置がわかる。1839年には写真が発明されたが、この時の写真家の多くは元画家であった。小さいサイズの肖像画を描いて生活していた人達は、商売道具が写真にとって変わられたのである。一方で写真技術は、絵画を写実から解放していく。つまり画家たちは写真で表現できないことをするしかなくなったのだ。  

 

また1843年にはパリとノルマンディーが汽車で結ばれた。鉄道は市民の間に普及していき、平日はパリで働き週末はパリ郊外へと遊びに出かけるといった生活習慣ができはじめる。そこから印象派の画家たちはレジャーをテーマに絵を描いた。私たち現代人にとって印象派が受け入れやすいのは、週末に憩いの自然を求めて足を伸ばしてみる感覚にとても共感できるからかもしれない。

 

絵画史を俯瞰するには丁度よい、手にとる価値のある一冊。

画像提供:朝日新聞出版

 

ビュールレ・コレクション

東京・福岡・名古屋にて印象派の大規模展が開催される(2/14〜国立新美術館)。モネの2×4メートルの大作「睡蓮の池、緑の反映」は、これまでスイス国外から一度も出たことがない睡蓮の作品だ。その大きさにも圧倒される。入場者数でいうと、東京都美術館の若冲展は44万人、東京国立博物館の運慶展は60万を超えたので、鉄板である印象派は確実に数字が上がるだろう。会期中は人ごみを避けた平日12:00頃がオススメ。


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